恋愛必要経費

 華音は鷹山に頼まれた書類を持って、赤城オーナーのいるビルへとやって来た。
 代表取締役である彼は、最上階の社長室にいる。

 中へ通されると、応接セットのテーブルの上に、綺麗にラッピングされたギフトボックスが山のように積み上げられていた。
 華音はそれらを横目で見ながら、自分のデスクに悠然と座っている赤城に疑問をぶつけてみた。
「どうしたんですか、これ」
「ホワイトデー用のお返しだ。そういえば、君からも貰っていたな。一つ持っていっていいぞ」
「なんか、全然心がこもってないですよね」
「お菓子では不満か? いいだろう、何が欲しい? 言ってみろ」
 意外な展開だ。
 この男は楽団のオーナーである。つまり、お金は確実に持っている。
 本当にこの男から物を貰いたいと思ったわけではなかったが、華音はいま自分が欲しいと思っているものを素直に挙げてみせた。

「新しいケータイ」
「『通信交通費』で落としてやる。他には」

「春物のコート」
「それは『厚生費』だな。他には」

「イタリアンのディナー」
「『接待交際費』だ。あとは」

「マンガ本、全巻大人買い」
「フム、『新聞図書費』でいいかな」

 赤城は次々と勘定科目を口にしながら、欲しいもの候補をメモに淡々と書き付けている。
 しかし、どうも腑に落ちない。
「赤城オーナー、自分のポケットマネー使う気はないんですか? せこい中年男はもてないですよ」
「会社の金は俺の金だ。せこくて結構。いるのかいらないのか、どっちなんだ?」
「……マンガ本だけでいいです。言っておきますけど、全部で15巻ですから」
「分かった分かった。英語と数学の問題集15冊だな。重いだろうから、あとで自宅まで届けさせよう」
 しかし、というか、やはり。
 この男が、自分を甘やかすわけがないのだ。
 期待してしまった分、その失望感は計り知れないほどに大きい。
 華音が恨めしい顔を向けると、赤城は何が可笑しかったのか、突然声を上げて豪快に笑い出した。


(了)